だてに世界一のハッカーと呼ばれていない。

システムを組み立てたり、変えたりするのはもちろん得意だ。

だが、それだけにボンゴレでの

コンピュータ関係の仕事が全部回ってくるわけで、

ここまで一人でやってきたことを褒めてあげたい気分になる。






「うぅ・・・くそ・・・終わらん」






今回はシステムを新しいのに変えるということで、

朝から取り掛かりっぱなしでボンゴレ本部にある、

コンピュータばかりが集まっている部屋にこもっていた。

朝ご飯、昼ご飯、晩ご飯はここに運んでもらい、

本当に引きこもっている状態である。

たまにいろんな人が顔を出してくれて嬉しいのだが、

どうしようもないくらいに忙しいのでまともに話すことができなかった。

今も手がせわしなくキーを叩いている。

ちらりと時計を見る。

デジタルの時計は午後の9時を指していた。





「今日終わらないかも・・・」






タンっとキーをたたき、一区切りしたので、

イスにもたれながらんー!と伸びる。

ちょうどそのとき、ガチャリと開いた扉に目をやった。





「生きてるかー?」

「武ぃ!」






ふわりと漂ってくるコーヒーの香りに固まった体がほぐれた。











残業









「お前こもりっぱなしなのなー」

「イスにくっつきそうになるくらいにね」






コーヒーとデザートを持ってきてくれた山本はそのままイスにすわる。

この部屋にはイス二つと小さめのテーブルがひとつだけある。

あとはサーバやコンピュータ、

それに関する資料やCDやDVDがしまってあるステンレスの棚。

は仕事用のイスから立ち上がり、山本の向かいのイスに腰を下ろす。

顔には"疲れた"と書いてあるようだ。





「これ、三浦と笹川からだとよ」

「ありがとーって言っといて」

「おぅ!任せろ」






山本はいつも爽やかだなーなんてことをコーヒーを飲みながら思う。

ずっと画面と向かい合っていたため、

人と話すのが久々のように感じられた。

デザートと称した小さなケーキにフォークをつきさす。

口に放りこめばほんのり甘いクリームの味が広がった。





「幸せそうだな」

「ケーキ大好きだから」

「よく食べてるもんな」





山本が立ち上がってコンピュータの画面をみたり、

サーバの小さな明かりがチカチカしているのを歩き回って眺めていた。

珍しいものをみるように「ふーん」だの「へー」だの呟いている。

自分がこうしてあたりまえに向き合っているものを

珍しいものを見るように見ている山本を見てクスリと笑う。





「なんで笑うんだよ」

「いやーなんか、面白いなって」

「オレ全然わかんねーからさ、こっち系は」

「それ、クロームにも言われた」

「へぇ!アイツも!」






ボンゴレにいる人で機械をいじる人といえば、

ジャンニーニぐらいしか思いつかない。

後はみんな実践派だ。

自分も半分は実践派なのだが・・・。





「今は何の仕事してたんだよ」

「仕事・・・ていうか、システムを新しくしようと思って。古かったし」

「へぇーっつってもわかんねーな」





ニカリ、と独特の爽やか笑顔が飛ぶ。

何歳になっても変わらない笑顔だなと思う。





「ぁ、そーだ、ジャンニーニにこれ渡しといて。いなかったら机にでも置いといて」

「この紙切れか?了解」

「じゃぁ、そろそろ仕事始めるかな!」

「邪魔にならないようオレもおいとまするわ」





部屋を出て行くときに山本が言った、





「何かあればすぐ持ってくるからな」





という言葉がすごくありがたかった。

気持ちを切り替えて、再び画面とにらめっこすることにする。

自然と集中することができた。







山本はたまたま起きていたので、

またコーヒーを持っていこうとおもい、のいる部屋の扉を開ける。





「おーぃ、夜食持ってきた・・・・って」





扉を開けた山本はイスに座りながら眠ってしまっているを発見する。

スーと聞こえてくる寝息はとても気持ち良さそうなものだった。

夜食をとりあえず静かに机に置き、眠っているの頬をつっつく。

うなりもせず、目もさますこともない。

完全に熟睡していた。

そうとうつかれていたのだろう。





「まったく・・・」





彼女をみていると表情が緩んだ。

彼女のサラサラな黒髪をすくい口付ける。

起きやしないだろうかと思ったが、深く眠りこんでいるらしい。

なんて愛しいんだろうか。






まだシステムができていないのかもしれないけれど、

このまま寝せておいたほうがいいだろうと踏んだ山本は、

彼女を抱き上げ部屋に運ぶことにする。

イスに座ったまま寝ていれば次の日に影響するだろうから。

きっと体の節々が痛くなるに違いない。





「よいせっと」






思ったよりも軽い体を壊れ物を運ぶように静かにゆっくり運ぶ。

すでに12時を回っているボンゴレ本部内は静かだった。

起きている人もいるのだろうし、仕事にでている人もいる。

それでも通路には誰も通っていなかった。

彼女の部屋につき、足で器用に扉を開ける。

手であければ腕の中の落ちてしまうから。








ベットに彼女をゆっくりと置き、布団をかける。

ずっと腕の中に置いときたい衝動にかられたが、

無理やりでは彼女は望むまい。

今は眺めるだけ・・・

そっと彼女の頬に手を触れて、寝ている彼女を眺める。






「じゃぁな」






名残惜しいのだが、部屋を離れて静かにドアをしめる。

部屋の中のは幸せそうに眠っていた。








部屋にさす明かりで目がさめる。

おかしいと一番初めに思った。

仕事が終わったと思い、

コンピュータの画面を切った後から記憶がない。

なのに、自分は自室のベットにいる。





「誰が運んでくれたんだろう・・・」






わからないが、何故かすぐに浮かんだのは山本の顔だった。









「おはよー」

「ちゃおっす、。システムの更新は終わったのか?」

「なんとかー、ご飯食べたらもうちょっと寝るよ」





食堂に向かえばすでに人がいない。

リボーンが優雅にコーヒーを飲んでいた。

キョロキョロとあたりをみまわして、山本がいないかを確かめる。





「武は?」

「あいつなら今日の朝方から出張だ」

「え!そうだったの!」





それなのに夜食を持ってきてくれたのか!と驚いた。

普通朝方が仕事ならそれに備えて寝ておくものだ。

なんだか申し訳ないことをしたという気持ちと、

感謝の気持ちでいっぱいになる。





「いつ帰ってくるかしってる?」

「・・・たぶん、明後日ぐらいだぞ」

「明後日・・・」





直接お礼を言いたかったのだが、言うことができない。

そうなれば電話はつながるだろうか?

いそいでポケットから携帯をだし電話をかけてみた。

3コール目に聞きなれた声がでる。





か?』

「ごめん?仕事中?」

『いんや、まだ移動中』

「なら、よかった」

『どした?なんかあったか?』

「いや、昨日運んでくれたの?」

『あぁ、あれな。寝てたから』

「ありがとう、武。おかげでぐっすり眠れた」

『・・・』

「武?」

『ぉ、おぉ!そりゃよかった!』

「じゃぁ、仕事頑張って」

『じゃぁな』





切った電話に向かって呟きをもらす。

"ありがとう"の言葉がここまで嬉しいとは思わなかった。





「もっと頼ってくれていいんだけどな・・・」





いつかは彼女にいえたらいいと思う。